映画・曲・本の感想

「少年の名はジルベール」感想

オーギュ、オーギュ、僕のオーギュ。

初めて『風と木の詩』
を読んだのは小学生のときでした。
うちは基本、『小学校○年生』以外の漫画雑誌は旅行の時以外買って貰えなかったので、『りぼん』とか『なかよし』とか『マーガレット』は、地元の図書館でしか読めなかった頃でした。
『風と木の詩』は、そういった時期に、図書館で単行本が置いてあった不思議な漫画でした。
後に、その図書館は、『アラベスク』も置いてましたし、児童室でない方にはジェラール・フィリップやマット・ディロンの写真集、あげくに、『男が子供を産む方法』なんていうとんでもタイトルのまであったので、割となんでも置いてある図書館というか…、図書館の人が「これは児童室におくべきではない」みたいな検閲はしなかったのかもしれません。

そして、ミュージカルをみたら歌が頭に残るように、『風と木の詩』を読んだ後、頭に残ったのが冒頭の「オーギュ、オーギュ、僕のオーギュ」でした。
小学生なので、いわゆるベッドシーンは全く意味がわかっていませんでしたが、兎に角大好きで離れられないというのは伝わってきたのでした。

元々ギリシア神話が好きで読みまくっていたので、男性同士の恋愛には全く抵抗がなかったので、普通に読めたのだと思います。

中学生・高校生になると、『JUNE』での「全寮制スクールの光と影 特集」とか「ケーコたんのお絵かき教室」とかに夢中になりました。
ただ、図書館には途中までしかなかったし、「風と木の詩」を本当の意味で最後まで読めたのは、高校生に入ってからだったと思います。
そして、『ファラオの墓』は大学生になってから。『風と木の詩』の続編であるのりす・はーぜ作『神の子羊』も読みました。

『神の子羊』の中で、竹宮氏が漫画にした部分より先も語っていて、『神の子羊』の作者 のりす・はーぜこと、増山のりえさんは、それを全て聞いていて凄く面白いのに、竹宮氏が一向に書いてくれない、結果として自分が書くことになったと書いていました。
また、『ファラオの墓』の愛蔵版だったか、『風と木の詩』の愛蔵版だったかには忘れましたが、その中に「『ファラオの墓』は『風と木の詩』のために描いた」と書かれていたんですよね。

前置きが長くなりましたが、『少年の名はジルベール』は、『風と木の詩』に関して知っているそれらのことの全貌が見える本でした。
竹宮惠子、萩尾望都、山岸凉子。その後輩の名前として一条ゆかりや、大島弓子が出てくる。私と同世代の人からしたら、もう頭の中が「ああ、この人もあの人も」になること間違いなしでした。
竹宮氏が東京に出てきたのは1970年。その年は私が生まれた年でもあるので、彼女の住んでいた場所と私の故郷の「区」は違いますが、それでも、子供の頃の東京の光景を思い出しながら、一方でまだ若い年齢で出てきた少女漫画家とその周りの人達の情熱に心をがっしりつかまれて読み進められました。

竹宮氏のスランプ時代のこととか読んでいると「ホント、よく、漫画をやめなかったな」と思います。
仕事でもあったからというのは勿論なんでしょうけれど、自分だったらどうだろう… 増山さんとも距離を置くかもしれないと思いました。
ただ、特別な友達ってそう簡単に縁が切れないというのは間違いないですし、そういう関係だったからこその今なんだろうと思います。

しかし、読んでいて実感したのは、この頃の人達の「少女漫画がパターン化している。その壁を破るんだ」という力強さと勉強熱心さ。
そして、今時の少女漫画の一部は「パターン化している」事実。
竹宮氏が一歩先を言っていた先輩として出てくる大和和紀氏とかは、やっぱり、ドラマや映画を見ているかのように話が展開しますよね。
パターン化している漫画は先が読めて安心は出来るけど、1ヶ月もすればストーリーを忘れてしまいます。
心に残る話を書けるということは、それだけの投資があるのだと思いました。

全てを賭けられるのは若さ故かもしれないけれど、自分が若いときにそれが出来てないのだから「若いから出来る」というのは言い訳だよなと感じました。
自分でやりたいと本気で思ったことは、兎に角、動くしかない。
それを実感させてくれる、素晴らしい本でした。

この本はきっと、もし、重版されなかったとしても、「神の子羊」同様、貴重な本として幻の本になるのかもしれないと思いました。
手に取るチャンスは逃さないのは勿論、ずっと置いておきたい本になることは間違いないと思います。
少なくとも私にとっては、大切にしたい本の一冊になりました。

Morten Harket.jp (http://www.morten-harket.jp/)の中の人。 二児の母で、フルタイム勤務しつつ、ノルウェー語の勉強をしています。 現在、NORLAからサポートを受け、ノルウェー語の詩の翻訳を実施中。

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