舞台感想

『LIFE LIFE LIFE』(4/28 14:00)感想

稲垣吾郎、ともさかりえ、大竹しのぶ、段田安則の4人によるシチュエーションコメディ、『LIFE LIFE LIFE』4月28日14:00の感想です。

まず、この4人による”前作”『バージニアウルフなんか怖くない』は見ておらず、前知識なし、かつシアターコクーンも初めてという状況で(しかも最前列で)見ました。びっくりしたのは、舞台と客席に「立体的な境」がないこと。つまり、平面であること。最前列だと帰りにちょっと方向変えるだけで、舞台の境である「青い部分」を踏む状態になるほどの近さでした。

舞台は第一幕から第三幕までというのは、ネットニュースで読んでいましたが、宝塚や東宝での「第一幕・第一場~第○場」となっている言い方でいうなら、第一幕は第四場まで、二幕は「第二場以外」。第三幕は第四場のみ…という不思議な舞台でした。同じ状況が少しずつ違って演じられることで、違いが浮き彫りになっていくという。

以下、ネタバレありです。

第一幕の感想は一言で言うと「これだから男は」。

稲垣吾郎演じるアンリも、段田安則演じるユベールも実によくいるタイプ。アンリは妻が「明日の打ち合わせのために書類を見ている」と言っているのに、「ほら、子供が泣いてるよ」「いいじゃん、少しくらい(甘やかしても)」「君の言い方が厳しすぎるんだよ」など…。ナチュラルに妻の仕事を見下し、女性なら僕にも子供にも優しくて当然だといわんばかりの、よく言われる「生んだ覚えのない長男(しかも反抗期)」タイプ。しかも、仕事のできないヘタレ。優しさと優柔不断、研究バカとロマンチストを勘違いしてうっかり結婚しちゃった妻が、ともさか演じるソフィという感じ。

ユベールは、ネットでよく見る女性叩きタイプ。女性の話は聞かず、自分のことだけ押しつけて後になって「なんだこれは!」なんていう。イケメン無罪と言う言葉があるけれど、稲垣吾郎演じるアンリは勿論イケメンですが、本当に見事にいらだたせてくれました。ユベールも、アンリも基本妻のことを見下してるから、気が合うのでしょうね。まあ、アンリの場合は妻に対するコンプレックスも相当ありそうです。出来る妻の足をひっぱりたいという。

私には大竹しのぶの言う台詞も、ともさかりえの台詞や行動も、ものすごく身近に感じました。わかる、わかるよ……。このまま話がどう続いていくのだろうというところで第二幕へ。個人的にはこのままストーリーが続いたら、妻二人によって夫二人が追い詰められていくサスペンスになっていくのではないかと感じました。ユベールが毒殺されたりとか。


第二幕のアンリ・ソフィ夫婦は、「表面上はうまくいっている」夫婦。でも、どこかピリピリしてるようにも見えました。ソフィは、第一幕よりも「だんなを立てている」し、アンリは第一幕ほど子供じゃない。でも、アダルトチルドレンという言葉が浮かぶタイプ。そして、ユベールは第一幕のモラハラ・いじめっこキャラから、セクハラ・ねっとりイジメ系タイプに。

ソフィは、いい人なだけの夫よりも、夫の人事を握ってそうなユベールに惹かれているし、ナチュラルに夫を下に見ているように感じました。ユベールがアンリをどう思っているかを暴露した第一幕とは違い、「アンリを守る」という気概は感じませんでした。結局、アンリのコンプレックスが爆発するわけですが…。この後が続くとしたら、アンリは窮地に立つだろうけど、ソフィがユベールを見限ってるので、夫婦としての絆は強くなる気がします。アンリも立ち直っていくのではないかな…。


第三幕は、第一幕とは真逆の「カオスから始まらない」展開。実は1日早めに来たというユベールの企みはそのままで、夫婦はパニックになっているものの、子供はおりこうだし、自体を悪化させがちなアンリのマイナス思考もなりを潜めている状態。でも、一番不穏に感じたのもこの幕でした。アンリは第二幕までのマイナス思考の男ではなく、浮き沈みは多少あっても普通のできる男でした。子供も6歳なのに聞き分けの良い子。一見完璧でありながら、『レコードは今かけないほうが』の一言で落ち込む夫、黙り込む妻。冷静沈着な夫と無防備な女性に見えて、ふと思うのが、この幕だけ「第一場」にあたるカオス部分がないこと。なぜ、ソフィはこの幕だけ着替えずにガウンのままなのでしょう。なぜ、ユベールに無理矢理キスされてしまうのでしょうか。「おりこう」な子供は、想像力豊かなので、抑圧された環境ではなさそうです。きちんと、大人への挨拶も心得てそうな感じ。でも、そうであればあるほど、ソフィが「ガウン」であることの謎が深まります。

一つの可能性としては、この1日前への訪問そのものがアンリ・ソフィ夫妻の罠である可能性。「ユベールはソフィに色目を使っている、ならば1日早く来るだろう」という条件で「あえて」ガウンのまま隙を作らせたとしたら。最後にヘコヘコしているユベールの新たな権威。第一幕・第二幕と異なり情報に敏い彼が、最初から気づいていたとしたら。電話が来るタイミングも、なにもかも、アンリの計画通りだとしたら。

妻がキスされたことに気づかず、キスするアンリ。でも、あのアンリとソフィのキスシーンは、どこかユベールに「見せつけている」ように見えました。つまり、これまでは一方的に「落ち込ませられた」シチュエーションにあったアンリが、ユベールを「落ち込ませる」ことに成功しています。恐らく落ち込ませることを目的にユベールが放った言葉「同じ研究が掲載されている」についても、跳ね返していることも含め、第二幕までのユベールとアンリの関係が逆転しているように見えます。

突然不機嫌になると、原因を知りたくなるのは人のサガ。そこで、「何かをみたのか」(キスシーンを見たのかとの遠回しな確認)と言わせて、更に、 夫婦のラブラブを見せつけることで、大竹しのぶ演じるイネスに「権威」のことを言わせて、(既に知っていたとしても)知らされたという体をとっています。

このまま、ユベール・イネス夫妻が帰宅した途端、二人はどんな会話をするのでしょう。元弁護士の彼女の頭と冷静沈着な夫なら、ハイタッチして祝うのかもしれません。なにせ、権威が高いほど、スキャンダルの効果は抜群。ここでユベールを引きずり下ろすことも可能なのですから。最初みたときは、最後の「すごいすごい」というので、第一幕のへーこら夫婦へ繋がるのかと思いましたが、よくよく考えてみると、あのシーンだけストップモーション的な部分がなかったのです。つまり、「予想だにしないことがおきた」というのを表現してきた、一旦停止がないことで、「予想通りのパターンになった」ということを表しているのではないでしょうか。

実はアンリがモラハラ夫で、ガウンから着替えさせなかったという可能性も考えたのですが、だとすると、「レコードは駄目」の台詞でアンリが落ち込んだところで、ソフィがもっと動揺したり怯えてもよいと思いました。まあ、どちらにせよ、アンリが主導権を握ってそうな気はするのですが。


一場面しかない、第三幕が一番想像をかき立てるというのが、非常に面白いと感じました。私は前述のような解釈をしたけれど、ありきたりな言葉ですが、見る人によっていろいろな見方が出来る舞台だと思います。大竹さん演じるイネスへの感想が少なめですが、イネスの存在感も相当でした。私がついつい、ソフィのほうに感想を抱きがちなのは、自分もいわゆるワーキングマザーだからだと思います。そして、ソフィを見ていると、なぜか、夫に対して一番愛情を感じるのが第一幕でした。結婚したことを後悔してそうだし、最後のシーンでは、アンリはソフィに捨てられそうだなーという感じではあるのですが、彼を守ろうとする力が強いのは、間違いなく第一幕でした。からまわってますけどね。

Morten Harket.jp (http://www.morten-harket.jp/)の中の人。 二児の母で、フルタイム勤務しつつ、ノルウェー語の勉強をしています。 現在、NORLAからサポートを受け、ノルウェー語の詩の翻訳を実施中。

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