Working Mother,  日常/心

テレワークを台無しにする、「雑談ミーティングのルール化」の前提

Twitterでタイムラインをみていたら、こんな記事がRTされてきました。

「テレワークは信頼貯金すり減らす」コロナで全社在宅のfreeeが取り入れたある方法

リモートワークは自然と、「信頼貯金残高」をすり減らしていきます。話さない・表情が見えないことで、相手が今忙しいのか余裕があるのか分からない。それにより、仲間に協力要請することや相談・依頼することが自然と減る。さらに、何かトラブルが起きたりすると、信頼貯金はもっと減っていきます。
だからこそ、日頃から「雑談」というかたちでコミュニケーションを取っておくことで、仲間の今の状況、価値観や働き方を自然と理解することが必要です。貯金をまた少しずつ増やすためです。これによって自然と助けを求めやすくなるし、「あの人に相談してみよう!」といった連携のきっかけにもなる。
「雑談もするようにしてください」程度では、そうしたコミュニケーションが得意なチームはやりますが、やらないチームはどんどんやらなくなる。チームのカラーによって、かなりばらつきが生じます。なので、組織として雑談を「仕組み」で担保することにしました。それが、全社ルール化の背景です

うん、言いたいことはわかります。普段からのコミュニケーションの蓄積が、テレワークやリモートワークでは発揮されますよね。わかります。でもね、信頼貯金残高というのがあるとして、減るのは本当に『テレワークだから』ですか。テレワークじゃなくても減りますよね。また、『テレワークだから』信頼貯金が増えることは絶対ないと言い切れるでしょうか。

日頃からコミュニケーションを取るのは良いことです。新入社員や中途採用、異動してきた人とのコミュニケーションは、リアルのほうがやりやすいのも、雑談が効果的なのも否定しません。しませんが、それと『テレワークが信頼貯金残高を減らす』というのは別問題です

冒頭で引用したこの部分なのですが

リモートワークは自然と、「信頼貯金残高」をすり減らしていきます。話さない・表情が見えないことで、相手が今忙しいのか余裕があるのか分からない。それにより、仲間に協力要請することや相談・依頼することが自然と減る。さらに、何かトラブルが起きたりすると、信頼貯金はもっと減っていきます。

「相手が今忙しいのか余裕があるのか分からない」のは、オンラインに限るでしょうか。私は限らないと思います。たとえば、リフレッシュコーナーでコーヒーで一息ついてる人がいたとして、その人は「暇」で「余裕がある」状況でしょうか。実は周りが煩くて一人で考えるために、コーヒー飲みながら仕事のことを考えている可能性もありますよね。あなたが「この人は今余裕がある」と判断したのは、あなたの先入観での判断であって、本当に余裕があるかどうかはわからないのです。

それに、この「相談・依頼することが自然に減る」のところには、一つ、書かれてない前提を感じます。それは、「私が依頼したら、相手は直ちに自分の用事を聞いてくれて然るべきだ」という傲慢さです。

私は以前に、「在宅勤務の向き・不向きと、工夫」というブログで以下のように書きました。

在宅勤務をすると、会社で使える奥義、「直接聞きに行く」が出来なくなります。「直接聞きに行く」は、言い方は悪いですが「強制割り込み」を発生させます。つまり、〆切り寸前に足りない情報があって聞きに行くと、(断りにくいので)手を止めて調べてくれたりします。近くにいる人なら、ものの一分で解決するかもしれません。この「奥義:直接聞きに行く」は、〆切りを直前まで抱え込むタイプにとっては、非常に重宝する技ですが、在宅勤務だと使えません。なぜなら、チャットやメールなどで問い合わせることで、「強制割り込み」ではなくて、相手にとっての「未処理リスト」に掲載されるだけだからです。いつ答えるかは相手次第です。なので、会話ならその日の5分で済むのに、待ち時間が5分の場合もあれば、3時間の場合もあり、思うようにことが進められなくなります。

本当に協力を仰ぎたければ、グループチャットや個別のチャット、或いはメールなどで、協力していただきたいと伝えるしかありません。これは、言いづらいとかではなくて、やるべきことだから、粛々とやるべきです。逆に、「テレワークになったら、回答してくれるタイミングが遅くなった。解せぬ」「既読スルーされてる気がする」という人は、テレワーク向いてないですし、普段が「奥義・直接聞きに行く」を発動しまくっていたのであれば、それは同時に、相手に強制割り込みを頻発させていた可能性があるので、自分の仕事のやり方を見直すべきだと思います。

さて、タイトルに「テレワークを台無しにする、『雑談ミーティングのルール化』」と書きましたが、なにも雑談をしてはいけないと言っているわけではないのです。

前提に「テレワークは信頼貯金残高をすり減らすから」というのがあるのが問題です。テレワークを実施するのであれば、オンラインでコミュニケーションが取れるツールは用意されているはずです。勿論、雑談もそのツールを使ってやるということでしょう。聞きたいのですが、雑談のときに「いやあ、ゲームに嵌まってて土日はあつ森10時間くらいやってましたー」という人の仕事が遅かったとして、「あいつ、実はあつ森やってるんじゃね?」とはなりませんか。こうなると、雑談も内容を選びます。ルール化して、うっかり毎日なんてことになったら、その「どうでもいい話をする」ために作業時間は減り、業務が遅れてる人は、業務にかかる時間が更に減り、口数も減り、「そういえば、あの仕事どうなりました」と聞かれるのではないかというプレッシャーを感じ…まあ、ノイローゼ一直線ですよね。「ただでさえ、テレワークで信頼貯金残高減ってるのに、ここで下手打ったら…」。

私も耐えられませんね。そんなこと。進捗ミーティングの中で軽い雑談を含めるようにする程度なら、「実は家族が熱を出してて」とかから「ああ、じゃあ業務大丈夫ですか?一部引き取りますか」というような自然な協力関係が生まれるとは思います。気づかいって、強制された雑談から生まれるのではなくて、普段のやりとりで生まれるもので、そもそもそれ自体、オンラインだろうとオフラインだろうと無関係だと思うのですよ。

もちろん、この記事の方が言っているのは「雑談によってお互いの状況がみえて、助け合える。情報共有が円滑になってテレワークでも信頼関係を築けるようにする」ことなのはわかります。でも、強制力もった雑談タイムって、もうその時点で「雑談じゃない雑談」なのです。「仕事としてやるべき雑談という名の会議」です。何を話すか前もって考えていく必要があり、半ば強制的にプレイベートを晒すことになる会議です。雑談できることは必要ですし、雑談タイムそのものは否定しませんが、前提を間違えると、雑談が如何に綺麗に出来るかが目的になってしまって、そっちで神経をすり減らしてしまうという可能性が大いにあると思います。

前提が「信頼貯金残高が減るから」ではなく、互いの状況に配慮できるために、なら話は違います。それは、先ほども書いたように、進捗ミーティングなどの中で、軽く「最近どうですか」という話をするようにマネージャーが振るだけで良いのです。

個人的に、信頼貯金残高というのがあるとして、その残高をすり減らすのは、約束してた期日に間に合わないのに報告しないみたいなこととか、事前に「この日以降のお手伝いは無理です」と言っていたのにもかかわらず、その日以降になってから泣きついてくるとか、ずっと打ち合わせに出てこなかったのに、決まった頃に出てきて全部ひっくり返す技を披露するとかであって、相手が何をしているか見えないくらいで減りはしませんね。その人の1日が自分の為だけに存在しているわけないんですから。寧ろ、「テレワークだと相手が何してるかわからないから信頼貯金残高が減る」という考え方は、部下の1日は俺の安心の為にあるという考え方に感じます。

コロナの流行で、普段学校に行けてない不登校の子は、(不登校の学校システムはオンラインなので)これまでと変わらず授業を受けることが出来、クラスメイトの嫌がらせで学校に行きずらかった子は、オンライン授業のおかげで、授業をまともに受けることができるようにもなりました。

本当の意味で、多様性を認めるとか持続可能な社会という話をしたいのであれば、「顔を合わせないと信頼関係が築けない」なんていうところから、もう、価値観を変えるべきだと思います。雑談したいならオンラインルームで「ガンダム好きの部屋」「ジャニーズ好きの部屋」「映画の部屋」「音楽の部屋」のようなものを作って、そこの開設時間を決めておけば、強制されるよりずっと楽しいと思いますけどね。

Morten Harket.jp (http://www.morten-harket.jp/)の中の人。 二児の母で、フルタイム勤務しつつ、ノルウェー語の勉強をしています。 現在、NORLAからサポートを受け、ノルウェー語の詩の翻訳を実施中。

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