宝塚

『麗人Festa』千秋楽感想 -男役は芸だ。私が宝塚に求めるもの

今年は、ネッシーさんこと日向薫さんの芸能生活40周年記念の年です。
その記念すべき年に、ネッシーさんがヅカOGの舞台で歌う・しかもCDも出るということで、これは見に行かなくてはということで、FC経由でチケットを取りました。
実のところ、現役時代、ネッシーさんは歌うまとは言えないタイプの男役さんでしたし、そのせいか、ヅカOG公演での歌中心のものには呼ばれないことが多い人でした。でも、本人はかなり上達してますし、昨年のヤマハホールのコンサートも、1月の「北川潤コンサート 人生はミュージカル」も最高でした。
だからこそ、歌イベントに呼ばれて欲しいなあ、毎回「大いなる落日」か「ベルばら」だけというのもつまらないなあと常々不満だったので、今回のCDにもメンバーの一人として参加して、かつ歌も歌うというのは、とても嬉しかったのです。

『麗人』といえば、宝塚OGが昭和歌謡を歌うイベントであるということは、かしちゃん(貴城けい)のブログやFCで知っていましたけど、実は、私はかつてのTMP音楽祭での宝塚の人の歌謡曲の「しっくりこなさっぷり」が前提にあったので、今ひとつ勇気が持てなかったんです。
かしちゃんは退団コンサートでポップスを歌っていたりもしたので、大丈夫だとは知っていましたけど。TMPのときの濃いメイクで聞いたことがないのであろうことが丸わかりの昭和歌謡を歌うというのが、どうしても頭をよぎってしまって。

前提はさておき、日程4日間全部見られたら最高だったのですが、なにせ、9月のこの時期は一年で一番忙しい時期でもあります。四半期の上期締めですからね。
なので、残業に続く残業があることから、まあ、平日は無理だなと。
ネッシーさんが出るのは23日・24日でしたが、23日は秋分の日ではなかったので、当然のように仕事。
峰さん・ネッシーさんという、私にとっての最高の組み合わせは残念ながら見られませんでした。
というわけで、マイ初日=千秋楽という状況。

全体を通して思ったのは、やっぱり男役は芸なのだと。それもかなり希少価値のある。
昨今、誰かがトップや二番手になると、やれ歌が上手いかどうかということばかりが取り上げられがちだけれど、歌劇団だけど歌手劇団ではないのだから、
歌を丁寧に外さずに歌うことはそれなりに大事だけど、つまらない優等生的に歌うことに集中されるより、ちょっとくらい音を外しても、出だしを間違えても、
観客を「男役として」楽しませてくれる姿勢を貫いてくれたほうが、見ている側は幸せになれるのだなと思いました。
勿論、演出の都合もあるし、ドレスや女子力の高い格好をするのが悪いとかではないですよ。でも、それだけだとちょっとつまらないよねと。

今回、宙組初代トップ、三代目トップ、四代目トップが揃ってましたけど、初代トップ(姿月さん)は歌ってるときも男役っぽくて良かったです。
三代目(かしちゃん)と四代目(大和さん)は、とってもかわいい女の子になってましたけど、もう少し男役っぽい演出が欲しかった気もしました。
好きなんですよ、二人とも。大和さんも、大分、歌上手になってましたしね。
汀さんの相手役で歌った「銀恋」で、一生懸命、如何に小さく見せるかを工夫している様はとても可愛かったです。
そういえば、かしちゃん・大和さんは、カーテンコールで下級生から順番に感想をと言われたときの、大和さん(トップバッター)、
かしちゃん(2番目)でした。
榛名さんに「そこのかわいこちゃんから」と言われていましたが、次の機会には二人の男役っぽさもぜひまた拝見したいです。
普段の舞台ではいいんですよ、でもヅカOG舞台ですし、ほぼ男役だけの舞台なんですから。

榛名さん・汀さん・真琴さん・姿月さんが、今回の中では一番男役してました。
榛名さん・汀さんは、本当にさすが。生涯現役男役!というのが、垣間見えて、彼女達は歌い出しを間違えてもなんでも、歌を聴かせるよりも
歌をショーの一部として「魅せる」という感じ。
彼女達をみていて、昨年、ネッシーさんがお茶会で言っていた「最近のヅカをどう思うか」について、「みんな綺麗だけど、みんなが綺麗すぎて濃さがない」というようなことを言っていたのを思い出しました。「濃さ故の面白さ」ってどのあたりの人まであったのかなーと思うと、真琴さんあたりかな…とか。
まあ、でも、春野さんと大鳥さんのデュエットをみていたら、春野さんも充分濃かったです。

そうそう。デュエットコーナーも凄く楽しかったです。
出番順は、
真琴つばさ・稔幸「もうどうにも止まらない」
高汐巴・若葉ひろみ (曲失念。二人の姿をずっとオペラで追いすぎてました)
日向薫・貴城けい 「切手のない贈り物」
汀夏子・大和悠河 「銀恋」
春野寿美礼・大鳥れい「別れても好きな人」
榛名由梨・春野寿美礼「星降る街角」

以下、Twitterで呟いた感想とも被りますが

真琴さん・稔さんはピンクレディ風衣装(狙ったそうです)での「もうどうにも止まらない」。振り付けに一部ピンクレディを入れたとか。
うーん、だったら最初から「渚のシンドバッド」とかでもよかった気がするけど、でも楽しくて良かったです。

高汐巴さんと若葉ひろみさん。この二人が出てくるとやはり嬉しいですね。
高汐さんが若葉さんに「相手役3人変わったけど誰が一番よかった?今ここに私しかいないけど」と聞いて答えさせてるのも良かったですし、
「こんだけ褒めたのだから、私の事も褒めて良いのよ」みたいなのも微笑ましかったです。
ネッシーさんは、私のもう一人のお目当てであるかしちゃんと「切手のない手紙」。
なんか紆余曲折あったそうですが(一体何が…?)

 かしちゃん 「私、紫子好きだったんです」
 ネッシーさん「生でみたんじゃないわよね?」
 かしちゃん 「はい、テレビでやってたのをみて。風吹がすごく好きだったんです。昨日、峰さんとご一緒されて、ピーナッツで歌ってるのをみて
        あー、本物がいるって!」
 ネッシーさん(笑顔で頷きながら聞く)

というくだりがとてもかわいくて良かったです。私、宝塚観劇を復活させたのは、スカステで「霧のミラノ」の稽古風景をみてかしちゃんに惚れたからなんですね。それで多分ナウオンだったと思うんですが、新人公演でかしちゃんの役を緒月さんがやっていて、朝海さんが「かしちゃんはいかにも貴族って感じだから、新人公演で貴族っぽさを出すのは大変でしょう」と緒月さんに言ってたんですよね。
それを聞いた時に咄嗟にネッシーさん・シメさんを思い出して、「貴族といえば、あの二人以上に貴族っぽい人はいないと思うんだけど」と。
まあ、今回もそうですが、ネッシーさんはひいき目を別にしても、他の人と姿勢の良さがまるで違うんですよね。
普通に姿勢が良いだけでなく、姿勢の良さに気品があるというか。
だから、かしちゃんもそのタイプなのかなーと思いながら、チケットを取った思い出があり、朝海さんとかしちゃんのコンビをみてからは「この二人での紫子を見てみたい」と、結構強く思っていたんです。
かしちゃんはその後、宙組落下傘の大劇場一作退団で、紫子は当時の月組だったでコム・かしでは見られませんでした。
でも、その後、ネスレ宝塚トークで「『紫子』をやりたかった」というのを聞いて、凄くうれしかったのです。
だから、この二人がデュエットで一緒に歩いてきたのは、私としてもとても嬉しかったです。
それにしても、峰さんとのピーナッツ、見たかった。

汀さんと大和さんの「銀恋」は、本当にどこかのスナックで歌ってそうな感じ。
汀さんが男にしかみえなくて、大和さんは背が高いので必死に小さくなっていて可愛かったです。
汀さんがトークでも「こんなん小さくなってくれてかわいいったら」と言っていましたが、大和さん曰く「オーラがすごい」とか。
大和さんに「あの踊りとか前もって考えてくるんですか?」と聞かれ、「その場からわき出るもの」との回答。
更に、「いい?歌に自信なかったら踊ったらいいのよ」(踊る)という言葉で会場が爆笑の渦に。

春野さん・大鳥さんの「別れても好きな人」は、曲を選んだのが確か大鳥さんだったと言っていた気がします。
そして、春野さんを「元カレなので。」と。春野さんが振り付けたというちょっとコミカルな振りも楽しかったです。
ここでは、春野さんの男役っぷりも堪能できました。
大鳥さんの真っ赤なドレスは春野さんが選んだというところにも愛情を感じます。
「ドレスは赤ですけど、春野さんが選んでくださったのでスミレ色に染まりました」という大鳥さんの言葉も良かったです。ラブラブで。

春野さんは榛名さんともデュエット。「星降る街角」。
榛名さんが「名前が似ているから、気にして見ていた」という愛情ある言葉。
大鳥さんからの引き続きで、男役のままの春野さんと、コーナーがなくてもそのまま男役の榛名さん二人が歌うと、男役の良さみたいなのを
実感します。

OGの後輩に対する包容力を随所で感じつつ、あっという間に終わってしまったコーナーでした。

デュエットコーナーはこれで終わりでしたが、デュエットのときにトークを挟まなかった人は、次に出てきたソロでの歌のあと、若干トークがありました。
今回、男役っぽさを十二分に発揮してた真琴さんの「サムライ」は、CDでも聞いていましたけど、真琴さんの良さが凄く出ていて良かったです。
トークで、汀さんも沢田研二を歌うらしいから、ぜひ一緒に歌いたいと言っているのをきいて、この二人で沢田研二カバーコンサートとかやったら行ってしまいそうな自分がいます。

杜さん、稔さんは、今回も「そつなく」歌も上手くて随所随所で舞台を引き締めていましたが、なにぶん、ツートップ&高汐巴があまりにも濃いので、
もう少し、冒険してみても良かった気がしないでもないです。(ネッシーさんは目立ったことはしてないですが、自然に濃かったです。背の高さのネタもそうだし、醸し出すオーラが星組)

ピンクレディっぽい衣装1回以外は、真琴さんはずっと男役らしい服装で、そしてそれがとてもよく似合っていて幸せな気持ちになりました。
姿月さんもですね。実は初めて生でみましたけど、格好良かったです。歌も上手ですし。

最後は全員で「幸福を売る男」、その後カーテンコールで下級生から順にご挨拶でしたが、ネッシーさんが「先輩達についていきます」といって汀さんだか榛名さんだか高汐さんだかに「あら、かわいいことを」と言われるやりとりも良かったです。
ネッシーさんが「かわいい」って言われるシーンって貴重だと思うんですよね。

そして、この「幸福を売る男」の歌詞でも改めて思いましたけど、冒頭にも書いたように、やっぱり男役は芸なんですよ
歌唱力とかそういったものを補ってあまりある芸、それも見ている人を幸せにする。
勿論「完璧にしあげよう」という努力は必要ですが、その努力も楽しみながらやってきたのが、榛名さんや汀さん世代な気がしました。
上手く言えませんが、「完璧にしあげる」ための努力は必要です、でも「完璧にしあげなかったらダメ」という枷は違うし、そのプレッシャーがこちらに伝わると「此処がダメ、あそこがダメ」って言ってしまいたくなる雰囲気を作るんじゃないかなと。そうすると、宝塚は夢じゃなくて現実になってしまう。
でも、「あ、失敗した」というときに、ダンスで楽しませるようなフォローをする柔軟性があると、「あ、失敗したー。でも楽しい-♪」になる。
汀さんはカーテンコールで「さっき、歌がダメならダンスで誤魔化せいったけど、失言だった」と言っていましたが、案外失言ではないと思います。
いつまでも宝塚の男役芸から離れられないと、テレビは他の芝居では難しいかもしれない。
でも、いざというときのカードみたいな感じで、いつでも男役に戻れるとうのは、きっと素晴らしい武器だと思うし、これから卒業する人達も
「宝塚を退団しました=男役捨てました」ではなくて、「宝塚を退団しました=男役以外にも武器が増えました」にしてほしいと思います。素晴らしい先輩はいっぱいいるのだから。

私が宝塚に求めるものって何だろうって、ここのところよく考えていたのですが、

・演技で夢を見られること
・ストーリーで夢を見られること
・歌が演技の邪魔にならない程度に歌えること
・男役が素晴らしく気障でカッコイイこと

そしてなにより、舞台と客席が一体化して笑ったり泣いたりできることだと思いました。

今回、ネッシーさんみたさで行きましたが、本当に今まで見ていなかったことを後悔してしまうような、素晴らしいコンサートでした。
このプロジェクト自体は今回で最終回のようですが、また、機会があったらぜひ見たいと思います。

そして、このコンサートでネッシーさんが歌えることは周知の事実になったはず(Twitterで検索したら上手いじゃんと言ってる人もいました)なので、
これを機に、ネッシーさんがヅカOGの歌関係の舞台でも実力を発揮する機会が増えることを祈ります。

Morten Harket.jp (http://www.morten-harket.jp/)の中の人。 二児の母で、フルタイム勤務しつつ、ノルウェー語の勉強をしています。 現在、NORLAからサポートを受け、ノルウェー語の詩の翻訳を実施中。

2件のコメント

  • とも

    こんにちわ
    内容おおよそ同意です。
    ワタシは、22日昼と24日ライブ&トーク?と千秋楽に入りました。
    最初は、上級生の濃さに圧倒されましたが、昨今の優等生なTOPさんに物足りなさを感じていたので大きく首肯いたしました。
    1つ、蛇足ながら『姿月あさと』さんですので修正された方が宜しいかと思います。
    失礼致しました。

    • Tomoko

      こんにちは。 コメントありがとうございます。そして、名前ミスのご指摘もありがとうございました。修正しました。
      なんか昔のトップさんは濃いけど同時におおらかさもあって、ある種の余裕を感じます。

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